産後のママに赤ちゃん訪問のはがきの説明を通訳することがあります。正直なところ、こんなの日本語がわからない外国籍のママが使う気になるかな、と思っていましたが、なんとそれを実現させている都市があることを知りました。初めて聞いたときは「ほう・・・やった!」と嬉しく思いました。
この都市の子供家庭支援センターは産前産後の外国籍の妊婦さん、また生まれた赤ちゃんにまつわる様々なサポートや情報提供などの際、通訳を利用しています。要請を受けて通訳として活動をはじめ、5年目に入りましたが、保健師さんのきめ細かい配慮や気遣いに本当に毎回感動するばかりです。
経緯を詳しくは知りませんが、保健師さんからの熱心な要望でこの通訳派遣が実現したと伺っています。現場の切実な声が重い扉を開くのだな、と痛感しました。
妊婦健診にはきちんと行っているか、順調か、何か問題を抱えていないか、出産費用の心配はないか、出産準備は出来ているか、出産で入院中は誰が別の子供の面倒をみるのか、産後のお手伝いはあるのか、産後の健診の案内は届いているか、健診には赤ちゃんを連れて行ったか、赤ちゃんのいる生活は辛くないか、相談できる人はいるのか、保育園や幼稚園の情報はあるか、一時預かりの制度、在留資格や期限の問題、夫婦間の問題、などなど挙げればきりがないほどのチェック項目があります。保健師さんは、これらを一人一人の実情に合わせてきめ細かく質問し、支援をしておられます。通訳は電話での聞き取りや、健診時の通訳、また、保健師さんの乳児訪問に同行します。訪問ではスケール持参で赤ちゃんを計測し、母乳やミルクの摂取状況、体重の増え、また困りごとの相談を受けます。実際にお宅を訪問して、その家の状況を目で確かめ、空気を肌で感じとってこそ その実態がわかる、というものです。外国籍の方の場合はなかなか意思疎通を図るのが難しく、通訳の存在がおおいに役に立っているようで、やりがいを感じます。
話しているうちに涙を見せられる方、これまで誰にも言えなかった悔しい思いを吐露する方もいて、言葉の問題から我慢を強いられている様子を感じることもあります。また、言葉の壁から取り返しのつかない痛ましい事態を招いたケースも聴きました。先日赤ちゃん訪問のあと、保健師さんから「やはり通訳さんと来ると細かいニュアンスが伝わる。アプリだとどうしてもうまく行かない部分が出てくる。何よりママの顔が違う」ということをおっしゃいました。通訳としては嬉しい限りでした。
その家庭が子育てにマッチした安全な環境であるか、出産後の母親の精神状態や家族のサポートなどを含め、妊婦中から産後のママの様子を観察することで切れ目のないサポートが出来、それがその後のこどもの病気や虐待の予防、早期発見にも繫がるのでしょう。
保健師さんは決して待ちの姿勢ではありません。こちらから手を伸ばして積極的にかかわろう、決して孤立させない、置いて行かない、というはっきりとした意志が感じられ、それを感じることが出来るからこそ外国籍の方は心を開くことが出来、困りごとを言っていいのだと安心、信頼することが出来るのです。初めてでも、2回目3回目でも、出産育児を外国で経験することがどんなに心もとないかを考えると、まさに、この保健師さん達の姿勢が彼らを支えているのだと、感じます。電話をかけてその電話が~~区の保健師からだとわかると、電話を通してもわかるような親し気な雰囲気が流れ出て、信頼関係が構築されているのがわかります。
財政的な支援もいいでしょう、でも本当に必要なのは 安心・安全感と肯定感を抱いて子育てに向き合うことが出来る環境ではないかな、と思います。
このような支援が全国に広がることを願っていますし、医療通訳が活躍できる大きなエリアになる可能性を感じます。遠隔通訳ではなしえない分野です。
今日もヘルメットを風に飛ばされそうになりながら、保健師さんの後を電動自転車をこいで参ります。(Y.Y)
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